校長贅言2-14  「夢をあきらめるな! ~激動の半生を振り返って~」 順天堂大学 ニヨンサバ フランソワ先生の講演会が実施されました

[校長贅言]

 11月17日(月)、本校オリエントホールにおいて、順天堂大学国際教養学部 学部長のニヨンサバ フランソワ先生による講演会が行われました。本来であれば全校生徒に聴いてほしい内容の講演でしたが、3年生は大学受験に向けた面談の最中ということもあり、1・2年生に向けた講演となりました。また、インフルエンザの流行時期であることも考え、2年生のみオリエントホールにて直接フランソワ先生のお話を聴き、1年生には各クラスへの同時配信をするといった形式での講演会でした。

 冒頭で、2年生「探究」担当の司会生徒よりフランソワ先生の略歴が紹介されました。先生がルワンダのご出身であること、中国の医科大学留学を経て、現在順天堂大学で教鞭をとられていることなどの紹介があり、フランソワ先生へとマイクが渡されました。

 初めにフランソワ先生より、ご自身が学部長を務められている国際教養学部に関する紹介がありました。国際教養学部は、単に外国語の学習をするといった学部ではなく国際的な教養を身につける学部であり、多様な価値観の中で自立できる「グローバル市民」の育成を目標としていること、そのため「文系」の学問という範疇にとどまらない「文理複合型カリキュラム」で編成されているということなどが話されました。さらに、卒業生の高い就職率や、池上彰氏をはじめとした教授陣による質の高い講義などの特色が話された後、本題である、先生がこれまで歩まれてきた道に関するお話に移って行きました。

 ルワンダ語、フランス語、英語、中国語は日本語より流暢に話すことができるという先生ですが、この日の講演は流暢な日本語で行われました。

 ルワンダという国の基礎情報から始まり現在の都市部・農村部の生活の様子などが語られた後、先生がどのような子ども時代を過ごされたのかという話に移り、本やテレビで見聞きしたことはあっても、その場にいる私たちの誰も経験したことのないような先生の生い立ちが紹介されました。小学校に通うことをお父さんに許してもらうために、朝起きると、小学校に行く前に20ℓの水を汲みに行くことなどを日課としたということ、汲んでくる飲み水も安全ではなく、細菌や寄生虫が原因で多くの命が失われてしまうということ、貧しい農村部では労働力とみなされる子どもたちには、勉強をする時間の余裕などないということなどが語られました。

 そのような、一生貧しいままで命を終える生活を嫌だと思ったフランソワ少年は、日々の労働の合間にも勉強をし、進学率が10%以下という中学校への、国が実施する選抜試験に合格し、中学校へ進学してからも死に物狂いで勉強し、中学生の四分の一しか進学できない高校にも進学。さらには百数十人のうち10名しか得ることのできない奨学金を得ることで高校生活を続け、国の「医者になれ」という命令によって中国に留学し、北京語言大学で中国語を学び、中国医科大学で医学を学ぶまで漕ぎつけたそうです。

 留学中には偏見や差別とも戦わなくてはならず、留学生の中にはうつ病を患って中退する者や自殺する者までいたそうです。しかし、フランソワ青年は「家族によりよい人生を過ごさせたい」という夢を諦めることができず、中国で大学を卒業し、医師の資格を得(医師免許を持っているにも関わらず、中国政府は留学生を医者にさせてくれなかったようです)、ルワンダ政府からの留学支援が途絶えた後も、DJなどのアルバイトをしながら大学院を首席で卒業するといった努力を積み重ねたそうです。

 留学中に天安門事件を経験し、大学卒業後の帰国直前にルワンダで、100日間で100万人超のフツ族が殺されるという大虐殺があり(お母さまを含め、親族のうち50人が殺され、16人いた兄弟は6人だけになってしまったという事実を後に知ったそうです)、帰国することに身の危険を感じ、中国政府による強制送還を目前にして日本に来ることができたという小説のようなお話に、私たちは聴き入りました。

 その後の順天堂大学での研究や、現在までのフランソワ先生の経歴は、アフリカの、地球上の、より多くの人たちを救うための必然のように思えました。

 整形外科医よりも感染症の研究を進めることでより多くの命を救うことができると考えて研究分野を変えたことや、アフリカの人たちに教育を受ける機会を与えることができれば貧困から逃れることのできる人も増え、感染症に対する偏見もなくなって行くと考えて、私財を擲(なげう)って奨学金制度を設立したことなど、そのすべてがフランソワ先生の信念の表出でした。

 ときにユーモアを交えながらも、目の前の高校生に真剣に語りかけてくださったフランソワ先生の講演をお聴きし、私自身も目頭が熱くなる瞬間がありました。

 「貧困から抜け出すためには勉強をしなければならない」と歯を食いしばって勉強をしてきたフランソワ先生、多くの命を救うために研究を続け、学生たちを指導されているフランソワ先生の生き方に、多くの生徒が「感動」と、「やる気」と「勇気」とを与えられた50分間でした。

 最後に先生が紹介してくださった、“Believe yourself.”、“Yes, we can.”という言葉、ネルソン・マンデラの“We can change the world and make it a better place. It is in your hands to make a difference.”という言葉が、多くの生徒たちの人生の礎となることを願ってやみません。

 

追記:講演会後に生徒がポートフォリオに書いた、感想の一部を以下にご紹介します(原文ママ)。

 「フランソワ博士の講演を聞いて、将来私は、日頃諦めないことが大切だと唱えているが、唱えているだけで、実際諦めていたり、自分のことをあまり信用せずに、信用できる人には結構流されてしまいがちだと最近より感じているので、Believe yourselfや諦めないことを心に今以上にもち、いざという時に判断材料になるように活かしたい。今まで直接お話を聞いた方で、1番心が震えたし、心の底からすごい人だと感じた。」

 

 「こんなに激動の半生だと思わなくてすごく心にきました。やっぱり自分が体験してるからこその説得力があったし、会場にいた全員を魅了する卓越な喋りで終始夢中でした。将来大人になって老後になって自分の人生に誇りを持てるような誰かに話したくなるような人生を歩んで行きたいなって思いました。この講演を聞けて本当に良かったなって思います。」

 

 「私、すごい頑張りたいと思いました。何がとかじゃなくて、全部頑張りたいと思いました。こんな壮絶な経験をしていて、私だったら絶対に死にたくなって死んでしまうと思うけど、それでも生きて努力をして医者になったの本当にすごいと思いました。しんどいと思うことがあっても、フランソワ先生に比べればなんとでもないと思えるようになるし、勉強頑張って夢を諦めないでいきたいです。」